【国民民主党代表 玉木雄一郎インタビュー】人生100年時代の「働き方改革」を考える_01

 「新しい政治の流れを作る」をコンセプトに、政治家・玉木雄一郎が各界で活躍するゲストを迎え、約束事なく遠慮なく本音で語る。今回のゲストは、社会起業家としても活躍するNPO法人「TABLE FOR TWO International」の代表理事・小暮真久氏。ライフステージの変化に沿って柔軟な働き方を実現している氏とともに、来たるAI、ライフ・シフト(人生100年時代)を踏まえた、「今、本当に必要とされる働き方改革」について、持論を語った。


小暮真久(こぐれ・まさひさ 写真左)
1972年生まれ。「TABLE FOR TWO(TFT)」代表。早稲田大学理工学部機械工学科卒業後、1999年スインバン工科大学にて修士号取得。マッキンゼー・アンド・カンパニー東京支社入社。2005年松竹株式会社入社、事業開発を担当。その後、先進国の肥満と開発途上国の飢餓という2つの問題の同時解決を目指す日本発の社会貢献事業「TABLE FOR TWO(TFT)」コンセプトを知り、同プロジェクトに参画。2007年10月NPO法人TABLE FOR TWO International設立。2009年1月には、TFTプログラム導入企業が100社突破。
http://jp.tablefor2.org

玉木雄一郎(たまき・ゆういちろう 写真右)
1969年香川県生まれ。国民民主党所属の衆院議員、国民民主党代表。東京大学法学部卒業後、1993年に大蔵省(現財務省)入省。1997年ハーバード大学ケネディスクール修了。2005年に財務省を退職、衆院選に出馬し落選。2009年に初当選し、現在4期目。
https://www.tamakinet.jp


■人生100年時代は、果たして幸せか


 ──今回は「働き方改革」について、お2人の考えを伺いたいと思います。小暮さんの最新著書『人生100年時代の新しい働き方——生産性を高め、パフォーマンスを最大化する5つの力と14のスキル』も、来るAIやライフ・シフト(人生100年時代)を踏まえて、「どのように働き方を変えていけば豊かな暮らしができるのか」ということをテーマにされています。こうした時代の変化を踏まえて、これからの働き方をどのように捉えたらよいでしょうか。


【国民民主党代表 玉木雄一郎インタビュー】人生100年時代の「働き方改革」を考える_02

玉木: 私も、小暮さんのご著書を拝読いたしました。

小暮: ありがとうございます。

玉木: 私もいろいろな場所で、「今後、人生は100年時代へ」というテーマでお話をさせていただく機会が増えています。ところが一定の年齢層の方は、「えっ、100年も生きるの」という反応がとても多いんですね。

 リンダ・グラットン(ロンドン・ビジネススクール教授)著『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』がベストセラーになったのは記憶に新しいところです。これによると、「2007年に生まれた日本人は、107歳まで生きる確率が50%あると試算されている」と書かれています。そうなると、65歳で定年退職し、仮に105歳まで生きるとすると、老後の暮らしがあと40年続くわけです。そこで「寿命が伸びるのは結構だが、老後資金は一体どうなるのか」という不安が出てくる。年金制度のもとで長く生きることになったとしても、果たして誰もが安心して暮らしていけるのかという心配があるんですね。

 私自身は「人生100年時代」を非常にポジティブに捉えているのですが、現実にそうなったときのライフスタイルや高齢者就労、あるいはそれらを支える社会保障の在り方を同時に示さないと、一定年齢層あるいは一定所得層以下の方にとっては、過酷な未来の提案でしかない。実際どうすれば、長く生きられるようになった人生を豊かに楽しめるのか。この課題は、われわれ政治家全員が否応なく向き合わなければいけないと強く感じています。

小暮: つまり日本では、「寿命が100年までになった」=「すべてポジティブというわけではない」という見方があるのですね。
今のお話を伺って、ポイントは2つあると思いました。一つはお金の面で、もう一つは生活の質。「そもそも幸せなのか」という心配があると思うんですよね。

 1つめについては、経済成長率といったマクロ経済の話で、今回のテーマである「働き方改革」では解決策が見えづらいと思うんです。そこで後者になるわけですが、まさに『LIFE SHIFT』にも書かれているとおり、これまではみんな、人生を分かりやすいステージに分けて生きてきたと思うんですよ。

 たとえば、「一生懸命勉強する学生時代」→「社会に出て働きまくる時代」→「リタイアして老後」というような。そういう終身雇用の仕組みが崩れてしまった今、人生のステージもこれまで通りの順番ではなくなっています。例えば男性であっても、子育てのために育児休業を取得して家族とともに過ごしてもいいし、男女ともに、スキルを磨くために副業を掛け持ちしてもいい。そういう働き方や生き方が、今後大きく変化していくことが問われているんですよね。


■ピントのずれた「働き方改革国会」

【国民民主党代表 玉木雄一郎インタビュー】人生100年時代の「働き方改革」を考える_03

小暮: そして今、政治の世界でも「働き方改革」と言われる、さまざまな政策が出ていますが、国民の側からすると、「一体、どこに向かっているのだろう」という疑問が出てきています。

玉木: どういう文脈で働き方改革の議論が出てきたのかは、非常に大切なところだと思います。日本の労働生産性はG7主要先進国の中で「ずっと低いところにある」ということは知られていますが、2000年から2010年まで7番目。ずっと最下位なんですよ。日本人は長時間労働をしている割には、それに対するアウトプットが伸び悩んでいるので、「非効率な働き方をしている」と見られています。そこから「無用な長時間労働を是正して、もっと労働生産性を上げていこう」というスローガンが挙がって、結果的に「働く時間が短くなるのだから、人生もハッピーになるだろう」となったわけですね。

 ただ、ここで事実を見落としてはいけない。実際に日本は労働時間が長いのかというと、実は日本は既にアメリカやイタリアよりも年間の労働時間数は短くなっています。分母分子でいうと、分母のところが大きすぎて生産性が低いっていう議論が行われているのですが、よく見ると労働時間そのものは減っているわけです。

小暮: なるほど。分母は減っているんですね。

玉木: ええ。ということは、むしろ分子である収益性の高いところの作業構造を変えなければいけないことが、実は本質的な問題だと思います。ところが現状は、労働時間の長さだけに問題が集中し過ぎている。

 もちろん、「経済成長率が低くなってきている日本で、高齢化社会の中でどうやって経済の成長を図っていくのか」という中で、労働問題を取り扱うことは大事です。しかし、「労働生産性を上げるための働き方改革」というのはピントがずれている。

 一方で、若い人が亡くなるような過労死は防ぐべきですから、残業代の上限規制を入れたりはしているものの、外国の方かは「そんな過酷な仕事ならば辞めたらいいのに、なぜ辞めないのか」という、極めてシンプルな疑問の声があがる。「嫌でも辞められない」という、この何ともいえない同調圧力が会社や社会の中に蔓延(まんえん)している。これを根本から変えていかなければいけません。それには、「人を大切にする」という経営者側の視点が重要ではないでしょうか。

小暮: とてもよく分かります。

玉木: 「人件費はコストだから、いかにコストファクターを小さく、アウトプットを大きくするか」というのは一理あるものの、全ての価値を生み出しているのは、やっぱり人です。働く人々すべてが生き生きとやる気を持って、自己実現を図れるような環境を整えることが、結果として売り上げや利益の向上にもつながるという発想で取り組まないと、何も変わらない。

小暮: 「働き方改革」とはいえ、働き方のことだけを議論していても駄目で、もっと背景にある文化、経営者の考え方から変えていくべきですよね。誤解を恐れずにいえば、今の働き方改革の対象がロボットならともかく、でも、やっぱり対象は人間なので、僕も「ちょっと乱暴な議論なんじゃないかな」という気がしています。もっと深く、僕らがどういうふうに仕事をしているのかに焦点を当てるべきです。


■労働時間の短縮よりも、個人のエンパワーメントが重要

【国民民主党代表 玉木雄一郎インタビュー】人生100年時代の「働き方改革」を考える_04

小暮: 僕は3年ほどイタリアにいたのですが、実はイタリア人の労働時間って、すごく長いんです。そう見えないかもしれませんが、会社には夜8〜9時ぐらいまでいることが多いんですよ。

 その理由をイタリア人に聞くと、「仕事をする日であっても楽しい一日にしたい」と。だから、友達とのランチとか、コーヒーを楽しむ時間はきちんと取りたいと言うんです。それを楽しむことで、その後の生産性も上がると。だから別に、働く時間が長いこと自体は苦じゃないと言うんですね。ただ、彼らが何より大事にする「食事」を犠牲にするような働き方はあり得ない。早く帰りたいがためにランチをクイックにするかというと、それは幸せではないんですよね。

玉木: なるほど。2時間ぐらいランチを取っても、やるべきことは残業してもやるということですね。

 労働市場全体に流動性があって、かつセーフティーネットがしっかりしていれば、社会全体で雇用を確保する仕組みが出来ていくのではないでしょうか。今政治がやるべきなのは、企業と雇用者との関係だけに着目するのではなく、雇用者がどこに行ってもきちんと職を得られるような労働市場や産業構造をつくっていくことです。

 「人生100年時代」に戻ると、2つのポイントが大切です。1つは、個人をエンパワーすること。働く一人一人に力を付けて、力を与えて、どこに行ってもその人個人の人生なり、所得なり、幸せが担保できるような社会をどうやってつくっていくのか。そこでは教育がとても大事になってくる。

 2つ目は、生きるためのコストを下げていくこと。これは、単にデフレでいいというのではなくて、シェアリング・エコノミーをさらに広げていくべきです。極端な例ですが、最近はラグジュアリー(高級)な船が売れているそうです。富裕層だけではなく、企業も買っていて、スマホを使ってマッチングして時間で貸し出すというビジネスにつなげている。以前はそんな豪華な船を楽しむことができたのは一部の富裕層だけでしたが、今は時間貸しで楽しめる。安い値段で、クオリティー・オブ・ライフを上げることが可能になったわけです。この先AIなどのテクノロジーがどんどん発展していって、さまざまなものを無駄なくシェアすることによって「生きるコスト」を下げていけば、寿命が伸びても金銭面の問題は解決するのではないか。世の中には使用されてない資産がまだ山のようにあって、それを巧みにつなぎ合わせていくような仕組みづくりです。

 働き方もそうで、たとえば語学が堪能な高齢者など貴重な人材が、実はたくさん余っているように思います。

小暮: 組織がだんだん意味を成さなくなる時代がいよいよ来ている実感はありますね。20代ぐらいの人たちの中には、単発のジョブを請け負いながらフリーランス的に働いて、キャリアや人生を成立させていくというケースが増えています。日本の場合、私自身も含めてですが、大学くらいまでは社会人としての将来像を持たずに、どちらかといえばのんびりと生きているので、スキルを身に付けるのは会社に入社してから、となりがちです。そしてそれを企業が研修という形で支えてきたんですよね。

 でも今後、個人で生きていく時代を迎えて、スキルアップに対する動機付けをどうしていくか。あるいはシステムとしてどう支えていくのか、という視点が少ない気がしています。


■突破口を開く「副業の解禁」

【国民民主党代表 玉木雄一郎インタビュー】人生100年時代の「働き方改革」を考える_05

玉木: 小暮さんは、若い人から働き方の相談を受けた時、どんなアドバイスをされているのですか。

小暮: 企業で働くことはいいけれども、それだけでは狭い範囲のスキルしか身に付かないので、余った時間や週末を使って、例えばNPOのような団体に入ってみることを勧めていますね。それも単なるボランティアではなくて、かなりコミットした形で時間を使ってみるとか。NPOの多くはとても小さい組織なので、さまざまな職務経験ができるし、リソースがない中で知恵を働かせる経験にもなる。例えば、アメリカでは、企業に入っても2年間の休暇を取ってPeace Corps(アメリカ合衆国が運営するボランティア計画)に参加できたり、Teach For America(アメリカ合衆国の教育関連NPO)のように、大学卒業後に2年間、教育困難地域で常勤講師として赴任できる期間があったり。システマチックにスキルアップの経験が積めるインフラがあります。

 意思のある若い人には、例えばうちのNPOに来てもらって、仕事もしながら別のこともして、自分のスキルを磨いてもらえるようなサポートをしていますが、残念ながら日本全体には、そういうインフラがあまり整っていない気がしています。

玉木: なるほど。確かにそうですね。

小暮: 青年海外協力隊(JOCV)など、素晴らしいNPO団体も日本にありますが、その内容の素晴らしさに対して、国内での評価が全く高くないんです。仕事を休んだり辞めたり、休職して参加しているのに、日本に帰ってくると仕事がないことから「片道切符」と言われていたり。一方のアメリカの場合は、途上国などでリーダーシップを発揮した人は「将来必ず優秀な人材になる」ということで、ボーナスも付けてでも戻ってきてほしいと、評価してくれる経営者の考え方があります。

 例えば今、日本で一流企業に勤める25歳の人が、「明日から青年海外協力隊でルワンダへ行きます」と言うと、周りの人は100パーセント反対すると思うんですね。それが欧米先進国の場合は、「ぜひ、そういう経験をしてきてください」と送り出す。そういう文化と仕組みの違いがありますね。

玉木: そういう意味では、インフラを整える突破口となりうるのが、公務員も含めた「副業の解禁」です。それまでの勤め先をいきなり辞めるのは、今の日本では難しい側面があるので、副業をすることによってもう一つの人生を経験する。例えば何千人規模の組織での副業では、なかなかマネジメント的な発想にはならないけれども、小さな組織、それこそNPOのような場での副業では、人事や財務、長期計画など、組織をまとめるような体験に触れることも出来ますよね。そういった経験は、人生のどこかのライフステージで生かされるはずです。場合によっては副業が人生の後半で主流になったり、スピンアウトして起業したりするような流れになる場合もあるでしょう。

 人間は安全基地がないと新しいベンチャーに飛び込めない。最後に戻れるところがある安心感の中で、大きなチャレンジを仕掛けていくほうが現実だと思うので、一定のルールの中での副業解禁は、今すぐできることの一つだと感じます。

小暮: なかなか環境を変えられないギリギリの人に対してどうするのかが、直近の課題だと思います。

玉木: そのギリギリの人に対してですが、「ベーシックインカム」(*1)的なものが必要です。国民全員に、7万円なり8万円を配るといった理想形でなくても、最低限の安心を保障する仕組みは可能だと思うし、やっていくべきです。

 今の日本人は不安を抱えていて、一部の富裕層以外はゆとりがないんですよね。でも最小限の保障が約束されれば、日本社会はもっと、わくわく沸き立つようになってくるかなと。失われた20年とか25年と言われるこの間を振り返ってみると、いつも追い詰められていて、将来が不安で、あまりいいことがなくて。だから、私たち政治の役割としては、日本に生まれた以上、人間として尊厳を持って、安心して暮らせるような基盤を政策的に作っていく。ライフシフトの時代だからこそ、そこが大事かなと思います。

(*1)……AI時代かつ人生100年時代に、誰もが安心できる生活保障制度として、英国のユニバーサル・クレジットを参考にした「給付」と「減税」を組み合わせた「日本版ベーシック・インカム政策」を導入するという、国民民主党の戦略提言のひとつ。同時に、玉木代表は、以下の3つの所得保障政策で、暮らしの安心を確保し生活不安を解消したいとしている。

1.子育て世帯の生活保障給付として「子ども手当て」を拡充する。その際、第3子に対しては住宅付与などの現物給付か、現金給付による多子加算制度を導入する。 2.基礎年金の最低保障機能を強化し、月7万円程度の高齢者向け生活保障給付を創設する。 3.農業者戸別所得補償制度をベースに、「GAP基準」を満たす農業者に対する新たな直接支払制度を導入し、再生産可能な農家所得を保障する。


■「社会に役立つ自分でありたい」ミレニアル世代の意識の高まり

【国民民主党代表 玉木雄一郎インタビュー】人生100年時代の「働き方改革」を考える_06

小暮: 恐らく玉木さんでも、私の時代でも、「まだ日本という国は成長する」ということを信じて疑わなかったと思うんですよね。それが、今は価値観の違いが出始めていて、特にミレニアル世代(2000年代に成人あるいは社会人になった世代)は、これからの日本の成長を全く信じていないんです。彼らの親世代は、リタイア後もあまりハッピーではないし、彼らが生まれた頃から経済はほぼ成長していなくて、たとえ企業に入っても、「対前年度比10パーセント伸ばすぞ!」と鼓舞されても、心の底では信用していないんですね。ただし、彼らなりに素晴らしい価値観を持っていて。われわれのNPOも今、全国に1000人ぐらいの大学生の組織があるんです。

玉木: 1000人というのは、すごいですね。

小暮: 僕らの時代、学生が興味を持つことといったら、サークル活動や飲み会みたいなものだった。それが今の学生たちは「社会に対して何かいいことをしたい」というミッションになってきているんです。僕も当初は懐疑的で、「就職のためにやっているんじゃないの」という目で見ていました。

 けれど彼らと10年付き合ってみて、「この子たちの価値観は本物だな」と確信できましたね。彼らの考えは、こういう時代背景の中から出てきた新しい価値観で、それは素晴らしいことだなと思います。

玉木: 若い世代の人たちは、社会的ミッションに意義を感じている、と。

小暮: 例えば、今の学生が就職したい企業というと、ユニクロの社名がよく挙がります。ユニクロは日本企業の中で最も積極的に難民支援に取り組んでいる会社でもあるんです。

 彼らはユーザーが不要になったユニクロの衣料品を回収して、それを難民キャンプに送っているんですよ。以前はユニクロの服だけでしたが、今は全部引き取ってくれるようになっています。ユニクロの代表取締役会長である柳井正さん自身は、「この活動は将来のマーケットリサーチになるから、社会貢献ではなくインベストメントだ」と言われていますが、さらには難民の人の採用もしているんですね。そういうことを、今の若い子たちはちゃんと知っているんですよ。

 先日もある企業からわれわれの事務所に問い合わせがあって、「急いで説明に来てください」と。今まで見向きもしてくれなかった企業だったのに、「一体どうしたんですか」と聞いたら、就職面接で「お宅の企業では、TABLE FOR TWOの取り組み(*2)をやっていますか」と質問が出たというんです。

玉木: それはすごい。

小暮: それで人事の人が慌てて、「なんだそりゃ」と。社会貢献に取り組んでいる企業なのかどうか、20代の人たちは、今しっかりと見ているんですよね。ですから「働き方改革」というよりは、「モチベーション改革」が必要なんじゃないかなって思っています。

玉木: それは大事ですね。労働時間が減っているのに、日本はOECD(経済協力開発機構)の調査で、エンゲージメントという、いわゆる「やる気を持って向き合う」指数が低いんですよ。会社にはずっといるけれど、エンゲージメントが低くて、「頑張っても頑張らなくても、給料は同じじゃないか」と考える人が一定数いる。ならば、そういう意識改革が優先で、仕事に対するモチベーションを持てるように、会社のミッションと擦り合わせていくことが大事ですよね。

小暮: そういう若い人たちの力とかモチベーションを上手につなげていくには、どうすればいいのか。例えば地方都市では、若い人のやる気とか、創造的な考え方のできる人材を必要としているんです。民間企業での仕事だけではなくて、公共の仕事やプロジェクトがリストアップされていて、自由に応募できる仕組みを作ってあげると、非常にいいマッチングが起きるんじゃないかなと思います。地方などで、能力やスキルも含めた人を集めるプラットフォームがあれば、日本中が活性化するのではないでしょうか。若い人は特に、「自分が社会の役に立っている」という実感を欲しがっている現状があるので、そこで情報収集が出来れば、週末を使ってでも参加するのではないかと思います。

(*2)……対象となる食品や定食の購入により、1食につき20円の寄付金がTABLE FOR TWOを通じて開発途上国の子どもの学校給食になる取り組み。20円は開発途上国の給食1食分の金額に当たる。


■女性が働きやすい社会をどう作るか

【国民民主党代表 玉木雄一郎インタビュー】人生100年時代の「働き方改革」を考える_07

小暮: 玉木さんがお考えになる、働き方改革の軸「個人のエンパワメント」というところでは、僕が気になっているのは女性の就労問題です。じつはTFTは、僕以外は職員全員が女性なんですよ。それにはいろいろな理由があるんですけども、経営者の視点からすると、女性の方々はとても優秀なんです。マルチタスキングも上手ですし、プレッシャーに強いですし。結局、同額で雇えるような人がいると、どうしても男性より女性を採用することになるんですね。それでも全体的に見ると、この国はまだまだ、女性の社会参加が少なく、かつ、しにくい現状を感じます。

玉木: そうですね。その一方で、地方だと昔から共働き家庭が多くて、働きやすい環境=「地域が生き残るための死活問題」になっています。「子育て政策」とはよく言われますけども、結局20〜30代の女性がいなくなれば、いくら子育て政策をしたところで出生率は伸びません。その世代の女性が暮らしやすい地域や会社の環境をどう整備するかは、地域の生き残り戦略としては不可欠な課題になってきています。

 正直言えば、これまで男性が作ってきた経済と文化が行き詰まっているのだから、これからの新しい価値観や社会を切り開いていくのは、やはり女性しかない。特にわれわれ政治の世界は一番出来が悪くて、先進国の中で女性の政治参加の割合がものすごく低い。実際、女性が政界に出ようと思うと、男性と同じことをして、男性と同じように振る舞わなければならない。もっと女性が自然体で入ってきて、さまざまな価値観や制度整備をしていくほうが、これからは重要だなと強く思います。国民民主党は、候補者の30%を女性にするという目標を定めました。

小暮: その制度整備のところでさらに気になるのが、産休や育休制度です。僕も子どもが2人いるので身近なのですが、例えば女性が仕事を休まざるを得ないときに、例外はありますが、日本の多くの企業では給与が支払われない。欧米と比較ばかりしても仕方がないのですが、欧米企業の場合は、ほぼ100%支払われますね。そうすると、実質その期間の生活が厳しくなりますし、キャリアの分断も招いてしまう。

玉木: 働く側の「キャリアの断絶に対する恐怖感」。対する雇う側の「人材の損失」という2大課題を社会全体としてどうカバーするのか。「産休中で働いていないのに、なぜ賃金を払うのか」という経営者の声もいまだにあるようですが、子どもが生まれたからこそ気付く視点があるわけで、商品開発やデザインなど、むしろ企業のさまざまなビジネスに生かしていけば収益のアップにもつながる。女性が働きやすい環境を目指していたら、おのずと利益率も上がったなど、新たな産業構造に変えていくことが大事だと思うし、そういうエビデンス(証拠、実例)も出てきています。

 CSR(corporate social responsibility……寄付などの社会貢献を通じて自社イメージの向上をはかること)よりも、CSV(creating shared value……社会的な課題の改善により、企業の生産性も高めるという考え方)。ネスレ社も「共通価値の創造」というCSVを掲げていますが、どういう価値を共有していくのかがもっと明確になれば、人生のさまざまなライフステージに応じて従業員の方もコミットしてもらって、「バリューを作っていこう」ということがチームとして共有できたなら、単に「産休で働けない間、給料を払うのは無駄」という考えにはならないと思うわけです。


■うそをつかない正直な政治が国民の人生設計に関わる

【国民民主党代表 玉木雄一郎インタビュー】人生100年時代の「働き方改革」を考える_08

 ──ここまで、「20〜30代の雇用」の話と「女性の働き方」のお話がでました。最後に定年や老後など、シニアの働き方についてもご意見をお願いします。以前、「スウェーデンでは定年を伸ばしたらGDPが上がった」というケースを玉木代表が国会で紹介していましたよね。


玉木: オレンジレポートのことですね。スウェーデンの年金財政報告書のことをオレンジレポートと呼んでいるのですが、特筆すべきなのは、「平均余命が伸びたら年金は下がる」と明確に伝えているところです。年金の仕組みをようかんで例えると、退職までに支払った保険料で、一定の体積のようかんをもらえるわけですよね。しかしこのようかんを横に伸ばせば、その一定の体積は減ります。これは仕方ないですね。

 そうすると、年金は年金でもらうのでいいとして、人生100年時代になったら、働かないと生活水準を保てないことになる。1930年生まれの88歳の方が65歳まで働いてもらう年金額と同じ金額を維持するためには、2000年生まれの方なら69歳10カ月、今よりもプラス4年ぐらいは働かないと、今の年金水準や所得を維持することができませんと、前述のオレンジレポートでは事前に発表しているわけです。

 しかし日本では、みんな年金がこの先減ることを知っているのに、政府がそれを正直に説明しないから、国民はますます不安になっていく。「年金は減りません」って言うけど、「どう考えても減るだろう、国はうそをついているじゃないか」と、不信ばかりが高まってしまう。先のスウェーデンのように、事実としての予測可能性をきちんと与えた上で、シニア世代が働くための環境整備を整えたり、人生の在り方を早い段階から準備したりできるようにしなければなりません。

 まず今の政府がやるべきは、起こる未来に対して正直に語ること。その上で何をするのかという順番です。うそをつかない正直な政治が、精神論ではなく、国民の人生設計に大きく関わることになる。

小暮: 退職金と年金だけでリタイア後を暮らす人生設計は、もう不可能ですよね。新しい人生モデルを模索しなければならないし、作らなければならない。やり方はいくつかあると思うんです。

 TFTでは今、法務や総務、財務関係の管理部門を一手にマネージメントしていただける方を探しているんです。しかし「雇う条件としては年収300万」というと、見つからないんですね。

 でも僕が以前お世話になったNPOでは、そういう方を雇用して成功している団体があるんです。そんな貴重な人材をどこで見つけてきたのかというと、銀行をリタイアされた方。帳簿や数字には当然強くて、リタイア後に少しお金を稼ぎつつ、やりがいのあることをしたいという、需要と供給が合致したそうなんです。

玉木: 身につまされる話ですね。われわれも資金が決して潤沢ではない仕事をしていますから、同じような人材を求めています。小暮さんが言われたようなマネジメントが出来る方が人材として欲しいとは常に思っています。でも、われわれも利益を追求する企業とは違って、活動を活発化すればするほど対応すべき支援者の数が増え、運営が苦しくなっていくビジネスモデルでやっているので(笑)。プロフェッショナルとして、銀行や税理士さんとか、地方公務員を退職した方という人材は、非常にありがたいですね。

小暮: 今はどの分野もそうかもしれないですね。そういう、人の流動性を探すプラットフォームがない。

玉木: それなんですよ。非営利分野のシニア人材のマッチングサイトがないですよね。

 高齢化社会を前提とするとなおさら、それまでの人生、成功があっても失敗があっても、何一つ無駄じゃない。失敗したら失敗したことの経験が何かに生きる。だから、それを生かすような環境整備ですよね。需要と供給は明らかにあるのに、重ならずにお互いが不幸になっている現状をどうつなぐのか。今はその過渡期なのかなと思うんです。

小暮: 将来への不安というのは、お金の多寡よりも、収入がゼロになってしまうこと。それが最大の不安だと思うんですよ。なので、リタイア後も、たとえ多少年収が下がっても入ってくるような仕事を得られれば、また違ってくるのではないでしょうか。

玉木: 日本人は特にストックが削られていくことに対する不安感が強いんですよね。経済的収入のフローが多少でもあって、毎月3000円でも5000円でも入ってきて、それを使いながらの生活となると、安心感が増すわけですね。でも、元本に手を付けることには抵抗がある。だから年を取っても働けてフローの収入があるということはとても大事だなと思います。


【国民民主党代表 玉木雄一郎インタビュー】人生100年時代の「働き方改革」を考える_09

 ──最後に、お2人の今日の感想をお願いいたします。


小暮: 玉木さんとお話しさせていただくのは2度目なのですが、今回も「普通の国民の生活感覚をお持ちの方だな」と強く感じました。今回は働き方改革をテーマにお話しさせていただきましたけど、一般の人からすれば「上から目線」、経営者の方からすると「余計なこと」という政策は、すでに挙がっているんだと思うんですよ。でも、そうではなくて、ぜひ今回の対談のような、一般市民目線でのアイデアを具現化していただけたら。ぽんと丸投げ、というのではなく、一緒にやっていただける国会議員でいていただきたいなという、頼れる兄貴、先輩へのメッセージで締めくくりたいと思います(笑)。

玉木: ありがとうございます。私たち国民民主党としても、普通の感覚を持って政策を考えて、かつ、オープンイノベーションでやっていくつもりです。政治家だけが全部分かっていて、全て仕切ってやっていけるなんていう考え自体、それこそ上から目線でおこがましいですから。小暮さんのように、パブリックインタレスト(公共の利益)なところで仕事をされている方々の意見を柔軟に取り入れながら、一緒に時代をつくっていくという感覚で、これからいろんなことに臨んでいきたいと思います。