5月7日に設立大会を行った国民民主党は、綱領に「中道」と「改革」という言葉を盛り込んだ。その思い、国民民主党が何を目指す政党なのか大塚耕平共同代表に聞いた。


中道改革政党とは?

 ──「国民民主党」という名前に込めた意味を教えていただけますか?


 「新しい国民政党」としてスタートした国民民主党の「国民」には、いくつかの意味を込めました。
 まず第1に、国民生活の向上と国民経済の発展を目指すことが最も大事な仕事であるとの思いを込めました。
 第2に、国民主権を守るということです。憲法は国民主権を定めていますが、それは「国民は総選挙の時に政府を選ぶことができる」ことを意味します。主権者としての国民の唯一の権能と言っていいかもしれません。したがって、私たちは常に総選挙の時に国民の皆さんが政府を選択できる環境を整えることが責務です。その決意を込めて国民主権の「国民」という意味も重ねました。

結党宣言

結党宣言


 第3は、国民主義です。政治学には国家主義と国民主義という概念があります。国民の自由や人権よりも国家の発展を優先する考え方が国家主義。一方、国家の発展はもちろん目指すけれども、その大前提は国民の自由と人権が守られることを前提とする。これが国民主義。私たちは当然、国民主義を貫徹する政党です。その意味も込めています。

 ──綱領には「改革中道政党」という言葉もあります。「中道」の意味を教えてください。

 中道はややもすると二つのものの真ん中、足して2で割るような捉えられ方をする場合がありますが、本来の意味は違います。ソクラテスから始まった西洋哲学は、「正しいとは何か」「正義とは何か」を問い続けています。ソクラテスは、何が正しいか、何が正義かは絶対的には決められない。だからこそ熟議を尽くし、物事を決めざるを得ないと言っています。
綱領

綱領


 アジアで唯一のノーベル経済学賞受賞者でもあるインドのアマルティア・センという哲学者の大著「正義のアイデア」が、西洋哲学の最先端の著作のひとつです。その中でも、センはソクラテスと同じように、正しいとは何か、正義とは何かということは絶対的には決められないので、熟議を尽くし、決まったことには従う、しかし、何が正しいかは絶対的には決められないので、権力は抑制的に運用する。それが民主主義だという趣旨のことを述べています。民主主義とはそういうものです。2500年経っても、変わっていません。
 中道は、自分の考え方や価値観だけで物事を裁かないことを意味します。つまり、異なる意見も認めたうえで、熟議を尽くし、どのように結論を見い出すかという思考論理、議論の方法論です。中道とは民主主義そのものと言っても過言ではありません。
 10人集まれば、意見は十人十色です。政党があれば政党の数だけ意見はあるし、その中でも議員の数だけ意見はある。しかしその時に自分の意見だけが正しい、正義だという議論の仕方をすると、結論は見い出せず、結局争いごとになっていく。改革中道政党とは、さまざまな課題を現実的に改革、解決していくうえで、民主主義的な手法を徹底して守り、前進していく。そういう姿勢と精神を改革中道政党という言葉で表現しました。
党大会で共同代表に選任され、「中道」「改革」の説明。

党大会で共同代表に選任され、「中道」「改革」の説明。


 私たちは結党宣言をまとめる際に、改革中道政党の精神を踏まえたうえで、3つの政治が大事だと明記しました。第1は、正直な政治。課題を民主主義的な方法で解決していくためには、それに関する事実を公開、共有しなければ適切な議論ができません。だからこそ、正直な政治です。第2は、偏らない政治。自分の考えだけが正義、自分たちの意見に従わなければ徹底抗戦するという姿勢は、ある意味で偏っていると言えます。異なる意見も認めたうえで、しっかりと客観的な議論をしていくことが偏らない政治です。第3は、現実的な政治。目の前の課題を現実的に一歩一歩解決していくことが政党の役割です。だから現実的な政治です。正直な政治、偏らない政治、現実的な政治。この三つが、改革中道政党の生命線だと思います。

「解決」のために3つの窓を開く

 ──国民民主党は「対決より解決」をアピールしています。「解決」とは具体的にどんなことでしょうか。今までに解決できたことなどをお話いただけますか。

 私はここ十数年、ある大学院で公共政策学の修士論文の指導をしていました。公共政策を専門とするジョン・キングダンという学者が、「3つの窓」という考え方を提唱しています。それは、課題や問題を解決するためにはまず「問題の窓」を開く、次に「政治の窓」を開く、最後に「政策の窓」を開く。この「3つの窓」を開くことが、課題を現実的に解決するという思考論理です。

大塚代表



 例えば、2009年以前の自民党政権、第1次安倍政権の時には、子育てに関する課題が国会の議論の俎上(そじょう)に上ることは多くありませんでした。社会保障のルーツ英国では、社会保障のことを「ゆりかごから墓場まで」という言い方をしますが、日本では長い間、「ゆりかごから就職するまで」は家庭や国民の自己責任という考え方で運営が行われてきました。しかし、少子高齢化が進み、現役世代の子育て負担が重くなり、もはや「ゆりかごから就職するまで」は国民の自己責任任せというわけにはいかない。子育ては社会全体でサポートしていく必要があります。それが課題だと指摘し、「問題の窓」を開こうとしました。そして2009年の政権交代を経て、まさしく「問題の窓」が開いたからこそ、いま待機児童問題とか、さまざまな子育て支援策が国会で議論され、そして政策になっています。こうした事実も、私たち国民民主党あるいはその系譜の中で、解決に向けて一歩前進した課題だと思います。
 「問題の窓」の次に、「政治の窓」を開く。実際に、政治が取り扱わなければならない課題であることが認識され、政治がこれに取り組み始める。これが「政治の窓」が開くということです。そして最後に、具体的に法律をつくり、政策制度になっていく。官僚組織も一緒になって実行に移すわけですが、これが「政策の窓」が開くということ。今の「ゆりかごから就職するまで」の子育て政策は、国民民主党の系譜の中で、この10年間の中で、「問題の窓」が開き、「政治の窓」が開き、そして「政策の窓」が開いている良い例のひとつです。しかし、「政策の窓」が開いたからといって、待機児童がすぐにゼロになるかというとそうではない。課題は年々歳々、多様化し、新しいことも出てきます。課題解決に向けて、不断の努力が必要です。
 この1カ月でも、政府の情報公開のあり方を巡り、一歩前進しています。どんな政策を検討するうえでも、政府が事実を公開・共有し、時間のある限り熟議を尽くし、そして決まったことには従うけれども、権力は抑制的に運用する。この民主主義の原則に照らすと、今の政権に問題があることは皆さんご承知の通りです。事実を隠ぺいするどころか改ざんし、時には公文書を廃棄までして、事実をもみ消しています。そして熟議を避け、権力を濫用する。
 国民民主党は政府の姿勢を正さなければならないと判断し、公文書管理のあり方を含め、政府を浄化するための法案を出しました(公文書改ざん防止法案参照)。これらは、今の政府のあり方に潜む「問題の窓」を開き、そして今、「政治の窓」を開こうと法案を提出している実例です。法案が成立し、実践されれば「政策の窓」が開くことになります。

「国民民主党の政策を正面から受け止めてほしい」と安倍総理に党首討論で呼びかけた。

「国民民主党の政策を正面から受け止めてほしい」と安倍総理に党首討論で呼びかけた。


それぞれの立場で全力を尽くす

 ──国民民主党の知名度を向上させるには?

 一人ひとりの議員の努力に尽きます。国会議員は60人強ですが、各議員は公設秘書(3人)や私設秘書に支えられています。仮に各議員が4人の秘書を抱えていれば、全体で240人。党事務局の職員が60人。これだけで360人です。さらに自治体議員が友好議員も含めて約1000人。国民民主党を構成する関係者全員が、それぞれの地域、それぞれの立場で全力を尽くし、国民民主党の考え方や活動を熱心に国民の皆さんにお伝えしていく。地味ですけども、それが知名度向上の王道です。手品のような妙案はありません。

 ──最後に代表としてメッセージをお願いします。

 どの政党が政権を担ったとしても、目の前の課題は同じです。政権が替ったからといって、課題が変わるわけではありません。私たちは、正直な政治、偏らない政治、現実的な政治を追求し、課題解決に全力を尽くします。向き合う課題は与野党とも同じですから、突き詰めて考えると、ある程度、対策等は同じ結論に到達します。だからこそ、私たちは政府提出法案の8割から9割近くには賛成しています。しかし残りの1割、2割の法案については、意見が異なる場合もあります。対応や選択を誤ると、10年後、20年後の日本は困ったことになりかねない。法案によっては、しっかり政府と対峙(たいじ)し、反対していくことによって、国民政党としての責務を果たしていきます。
 国民民主党はスタートしたばかりの政党です。私たちは、国民生活を向上させ、国民経済を発展させるために全力を尽くします。そして、国民主権を守るために、総選挙の時に国民の皆さんが政府を選択できる環境を作る。それが私たちの仕事です。その中核・中心政党として、全力で頑張ります。そして、近い将来、政権を担います。ご支援、叱咤激励を、どうぞよろしくお願いいたします。

大塚耕平(おおつか・こうへい)

1959年、名古屋市生まれ。早稲田大学政経学部卒、同大学院博士後期課程修了(学術博士、専門は経済学)。日本銀行勤務を経て、参議院議員選挙初当選(現在3期)。内閣府副大臣、厚生労働副大臣等を歴任。現在、早稲田大学客員教授、藤田保健衛生大学医学部客員教授。著書に「公共政策としてのマクロ経済政策」「『賢い愚か者』の未来」など。趣味はダイビング(指導員)と仏教研究(著書に「四国霊場と般若心経」など、中日文化センター仏教講座等の講師も務める)。