拉致問題は日本と北朝鮮の国家同士の交渉事。政府が中心となって取り組むことですが、野党議員にも熱心に取り組んできた議員はいます。その一人が渡部周副代表。国民民主党では拉致問題対策本部長もつとめ、20年以上この問題に取り組んできた渡辺副代表に話を聞きました。


 ──自己紹介をお願いします。


静岡県第6区選出の衆院議員渡辺周です。第6区は、皆さんご存知の伊豆半島全部と熱海、伊東、下田。私の所在は沼津市という人口20万人の街です。これまで8回選挙で選んでいただいて、今日に至っています。


 ──渡辺副代表は拉致問題へ取り組んでいるイメージが強いですが、取り組むようになったきっかけは何でしょうか。


 きっかけは初当選の平成8(1996)年にたまたま自衛隊の式典で隣に座った新進党のあるベテラン議員の一言です。「きみ、北朝鮮の日本人の拉致問題は知っているか」と聞かれましたが、その時は不勉強で全然知りませんでした。まだ小泉純一郎総理が北朝鮮へ行って、金正日(北朝鮮第2第最高指導者)に拉致を認めさせるはるか昔のことです。そのころは拉致の議員連盟もなく、北朝鮮による日本人拉致問題なんて言うと、「何を言っているのか」と世論の中では異端視されていました。横田めぐみさんのご両親が街角でビラを配っても「北朝鮮から人が来て日本人を誘拐するなんてありえない」とビラを叩き落とされるような時代です。そのころから運動に関わり、実際に拉致された人たちの家族や応援してきた人たちが大きな国民運動の核となり、誰もが知っている大きな問題になりました。
何の罪もない多くの住人が、ある日突然よその国に連れていかれることに大きな憤りを覚えながら今日まで来たのが、私の足跡です。

拉致国民大集会2018

拉致国民大集会2018


 ──問題にかかわってきた中で印象的だった出来事は何でしょうか。


 「日本だけの問題ではない」と日本の中でいくら言っても、特に欧米から見ると、位置関係も良くわからない国の国民がいなくなったことは、そんなに大きな関心事ではない訳です。世界の歴史の中で「そんなことはよくあるさ」と言われるような中、米国のブッシュ大統領(第43代)と横田めぐみさんの弟さんとお母さんがホワイトハウスで会うことになりました。北朝鮮から来た工作員が誘拐したなんておかしなことを言っていると思われていた人が、ホワイトハウスで米国大統領に直訴できた時は、小さな運動でもずっとやり続けていれば想いはそこまで到達すると実感したことが一つです。

拉致対策本部

拉致対策本部

 もう一つは、いまは無所属の会にいる中川正春先生と脱北者の人権問題に取り組みました。目的は、北朝鮮が非人道国家であることを国際社会に強くアピールするためです。そのうえで拉致被害者のことも含めた「北朝鮮に係る人権侵害救済法」という法律を議員立法で作りました。毎年12月は拉致問題の啓発習慣を行っています。この法的根拠もこの法律が元です。私たち野党だけではできないので、当時自民党の政調会長だった中川昭一(故人)さんに話をし、ご理解いただいて、いくつかの修正をして作り上げました。例えば5月にはアメリカに行って北朝鮮の問題、拉致問題についてシンポジウムを行い、12月に日本でも(シンポジウムをしながら)啓発イベントを行っていますが、この法律に基づいて予算措置も取った上で行っています。私たちは、拉致の問題と合わせて北朝鮮の非人道的国家ぶりをもっとあぶりだそうと、両方からアプローチをして取り組んできました。


 ──横田めぐみさんが拉致されてから41年が経過しました。所感をお聞かせください。


 今年9月に拉致の全国大会がありました。ポスターに載っているのは横田めぐみさんがさらわれた当時の14歳の時の写真。皆さんは「めぐみちゃん」と言うが、今の年齢は54歳。それだけの時間が経ったのかと思います。その間自由もなく、他国でずっと長く人生を拘束されて過酷な運命を与えられてきた。そんな不条理に対して、「おかげさまで平凡に生きてきた」という人たちが一緒に思いを寄せて、国際世論を作ってきた。いろいろな人の思いが一つに集まれば、何かが力になって、ありえないことを起こす可能性があることを、私は一つの心の柱にしています。「家族が帰ってくるまでは絶対に運動を止めない」という熱伝導を国会議員だけでなく、世界中の人たちに対してどのように心動くような伝え方ができるかに全力をあげたいと思っています。

横田早紀江さんと

横田早紀江さんと


 ──安倍総理は自分が最高責任者であるうちに拉致問題を解決すると言っています。安倍政権になって6年が経ちますが現状をどう認識されていますか。


 安倍政権は「拉致問題は最優先課題だ」と言って6年間。他国に対して経済制裁を働きかけながら、日本も「経済制裁」とは言うものの、あまりに緩すぎる気がします。時々、北朝鮮系の企業が不正にお金を送っていたとマスコミに出ることがあります。これでは、日本は本気なのかと問われます。こちらが頭を下げれば向こうの心も変わるというのは一つの美徳であるけれど、北朝鮮には米国の力を借りて力を見せながらの対話を模索しなければ、次の展開は生まれないでしょう。安倍政権では拉致問題が風化し、危機感を持っていないことの表れなのか、なんとなくメディアの扱いもどんどん小さくなってきています。政府が先頭に立つうえで物足りないことは、われわれ野党が「もっとしっかりやれ」と、時にアクセルをもっと踏み込むように、叱咤(しった)しながらこの問題を進めていきたいと思っています。


 ──年明けにも米朝首脳会談開催と報道されています。ここで期待することは何でしょうか。


 問題はトランプ大統領が核とミサイル以外に拉致の問題について、どこまで当事者としての重いを共有しているかです。共有していることを信じながら米朝会談の行方を見守りたいと思います。できれば二度目の米朝会談を行う前に、日本側から「くれぐれもこれを言ってきてくれ」、あるいは「これくらいの解決策を見出すことができれば、日本もこれから北朝鮮のために、何らかの形で協力することはやぶさかではない」などということを、もっとアメリカにインプットすること、働きかけるを続けることが大事です。


 ──渡辺副代表が考える、この問題を解決するために必要なことは何ですか。


 日本人だけでなく、さまざまな国の人たちがおそらく北朝鮮にいます。日本固有の問題ではなく、さまざまな国に被害者がいるということについて国際社会の中でコンセンサスを作ることが必要です。北朝鮮は、韓国のKポップを聞いたら強制収容所に連れて行かれたり、少しでも体制を批判したら、密告されて処罰を受けるという、自由の全くない独裁国家です。この非人道性を、日本だけではなく、例えばEUも含めて世界に発信し、アウシュビッツ収容所のような強制収容所が21世紀の世の中に残っているということを知ってもらう。金正恩が北朝鮮を民主化させるように、国連を含め世界中から圧力をかけ続ける。特に認識の足りないEUの国も含めてしっかりと理解をしてもらうことです。議長、副議長、閣僚はもちろんですが、われわれ議員も委員会で外国の議会と交流します。その時に必ず拉致のパンフレットを持っていくようにと、かつて議院運営委員会の理事をやっていた時に提言しました。わたしはギリシャに行った時も、キプロスに行った時も、トルコに行った時も、必ず会う人会う人にこの問題を理解してもらうためにパンフレットを渡してきました。いかに多くの「思いの共有」を作るか。国民民主党でも拉致問題を不変の人道問題として扱い、国際社会と連携することをもっと積極的に進めるようにしたいです。世界中から北朝鮮にプレッシャーをかけることを実現したいです。