―国会を強くし、熟議の民主主義を実現する―

政治改革推進本部長 古川元久
 国会改革小委員長 泉健太

◆改革の方向性

<国会を強化する必要性>

  • 国家の統治機構には、国会・内閣・裁判所の三権があるが、1990年代後半以降、特に、官邸機能をはじめとする内閣機能を強化するための改革が進められた。
  • 他方、国会については、1999年の法改正で政府委員制度の廃止や党首討論が導入されて以降、改革が停滞していた。そこで、2009年、民主党政権は、自民党政権下で確立した与党による事前審査制の慣行を廃止して、政策決定における政府与党の一元化を試みた。しかし、国会の仕組みは従前のままであり、かつ与党内の理解と認識が不十分であったことから、企図した成果があげられなかった。
  • その後の安倍政権においては、行き過ぎた官邸主導による拙速な政策決定ばかりが目立っている。その結果、国会が軽視され、国会による行政監視や、合意形成による多様な意見の反映がないがしろにされている。現に、行政文書の改ざんや、中身がなく政省令への白紙委任の疑いのある法案の提出など、弊害が現れている。
  • そこで、国民民主党は、「国権の最高機関」である国会の権威と、国会が内閣をコントロールする権能を取り戻すべきという観点から、「国会を強化するための国会改革」が必要と考える。

<国民代表としての機能を回復するための改革の必要性>

  • 現状の国会は、与党の事前審査制や会期制、熟議の機会の欠如などが相まって、審議が形骸化している。その結果、国会は、実質的な法案審議を通じて存在感を発揮することができていない。
  • 世界価値観調査(World Values Survey)等、各種調査の結果を見ても、日本国民の国会への信頼度は、際立って低い。与党の強行と野党の抵抗が繰り返される状況に、「自分たちの意見が代表されているとは思えない」という思いが、国民にあるのではないか。
  • 信頼回復のためには、一人ひとりの国民に、自分の意見が政治に反映されているという実感を取り戻してもらうことが必要である。
  • そのためには、国民の多様性を反映して、様々な意見が国会に持ち込まれ、議員間の熟議を通じて、法案修正等の合意形成がなされるようにするとともに、審議の経過と結論を公開し、有権者と情報を共有すること、すなわち、国会が国民代表としての機能を回復する必要がある。
  • 以上、国会を強化するとともに、国民代表としての機能を回復するという方向性のもと、Ⅰ審議の充実、Ⅱ行政監視機能の強化、Ⅲ国民に開かれた議会、を柱とする国会改革を提案する。

◆Ⅰ.審議充実のための改革

<議会の役割からみた現状と改革の方向性>

  • 議会には、(1)さまざまな利害や意見の対立が持ち込まれ、それを議員間の熟議を経て合意形成をし、法律や予算として成立させるという役割と、(2)政府対野党の論戦の場として機能するという役割がある。
  • わが国では、(1)の役割を与党による密室の事前審査が担ってしまっている。委員会・本会議は、(2)の役割が中心となり、それが高じて、アピールと対立が目立つ結果となっている。これでは、少数者を含めた多様な意見が十分反映できないのみならず、国民からは立法のプロセスが見えない。対決一辺倒となった現在の国会では、建設的な議論の場が失われている。
  • そこで、(2)を充実させつつも、主に(1)の役割を取り戻す方向で改革をするべきである。具体的には、与野党の熟議と合意形成による法案修正の機会を増やすべきである。以下、改革メニューを示す。

<法案委員会(仮称)の設置>

  • 法案内容の審査を丁寧に行うために、従来の委員会の中に、法案ごとの小委員会(法案委員会〔仮称〕)を設置する。これにより、法案内容の審議と、法案内容には直接関係しない審議を分離する。前者は、主に多様な意見を反映させながら合意形成をする場、後者は主に論戦の場として位置づける。
  • 法案委員会では、条項ごとの逐条審査を実施できるものとする。逐条審査の場合、条項ごとに表決・修正の機会が与えられることになる。また、逐条審査については自由討議も可能とすることで、与野党の対立を超えた法案修正など、建設的な議論が期待できる。野党が法案に反対する場合も、問題の所在や反対理由が具体的に示されるため、国民的な議論も深まると考える。

<党首討論の定例化・夜間開催>

  • 党首討論は、論戦の場としてさらに充実させるべきである。各党の持ち時間がわずかであり、十分機能していないのが現状だが、原則通り、毎週1回定期的に開催し、運用で各党の持ち時間を融通するなど工夫するべきである。また、Ⅲとも関連するが、開催時間を夜8時からにして、より多数の国民がリアルタイムで視聴できるようにするべきである。

◆Ⅱ.行政監視機能の強化策

<行政監視院の設置>

  • アメリカ連邦議会のGeneral Accounting Office(GAO)をモデルに、強力な行政監視機能を持つ「行政監視院」を国会に設置するべきである。行政監視院は、自発的に行政監視できる他、委員会や議員から行政監視院に行政監視の要求ができるものとする。行政監視終了後は、報告書を作成・公開するものとする。

<少数者調査権の導入と予備的調査の拡充>

  • 国会が内閣をコントロールする権能を取り戻すべきという観点からは、委員会の行政監視機能も高めるべきである。しかし、政府の不祥事や過誤等について、参考人出席や文書提出、さらには特別委員会の設置等を求めても、与党が政府を構成している議院内閣制下では、政府に都合の悪い調査ほど実施されないという現状がある。野党が主体となる調査を実現するため、一定割合の議員から動議がなされた場合には、特別委員会の設置等が義務付けられる「少数者調査権」を導入するべきである。
  • 衆議院の委員会が行う審査又は調査のために、いわゆる下調査として調査局長等に調査を行わせる予備的調査は、一定数の議員の要請に基づいても発動できる点で、少数者調査権と同様の機能を果たす。参議院への導入を含め、活用促進を図っていく。

<委員会による報告書の作成・公開>

  • 委員会は、政府の不祥事や過誤等、特定のテーマに関する調査を終えた後、政府への勧告を含む報告書を作成・公開するものとすべきである。政府は、一定期間内に、報告書に対する回答を行うものとする。

◆Ⅲ.国民に開かれた国会を実現するための改革

<委員会による報告書の作成・公開>

  • 前述した「委員会による報告書の作成・公開」は、国民への情報提供にも資するものである。

<国会参観のあり方>

  • 現状は、建物見学になっている国会参観について、国会内でどのような審議をしているかがよくわかるようにする方向で、参観や案内の方法を変えることを検討すべきである。以下に検討事項を挙げる。
    ・ボランティアなども活用して専門の説明員を配置。
    ・エントランスで、国会の概要や直近の取り組みがわかる解説動画を放映。
    ・国会参観のルートに、当日行われている委員会・本会議などの傍聴を追加。
    ・土日の一般参観の実施。

◆Ⅳ.他の主要課題

<国会運営の効率化>

  • 議員に配布する大量の文書を減らし、本会議場を含めタブレット端末等の使用を認める等の、「ペーパーレス化」・「ICT化」を推進するべきである。これまでは、文書の印刷時間も利用されてきた面があるが、そこから脱却し、実質審議重視の改革を目指すべきである。

<女性議員が活躍しやすい環境づくり>

  • 女性議員の妊娠・出産時の表決については、代理投票や通信端末を用いた遠隔地投票などの手法が考えられる。議員の「出席」を前提にしている憲法と整合がとれる形で速やかに整備するべきである。
  • 女性議員の産前・産後休暇、(男性議員含む)育児休暇については、国会議員の職務に鑑み、どの程度の休暇が必要か等を検討した上で整備を進める。
  • 子連れでの議会出席のあり方の検討を含め、育児と議員の職務を両立できる環境整備に努めていく。

<決算審査改革>

  • 厳しい財政状況の中、予算の執行結果である決算の内容を早期に審査して、次年度の予算編成に活かすことは重要である。この点、参議院は改革を進めて、前年度決算の秋の臨時会への早期提出を実現しており、翌年度予算の政府案決定開始前の審査開始を可能にしている。通年国会が実現すれば、より早期に、充実した審査ができる可能性もあり、衆議院においても改革を進めるべきである。

<国会職員の充実・能力向上と外部研究機関の活用>

  • 行政監視機能を強化し、徹底した調査から報告書の作成まで行うためには、調査局調査員等の専門スタッフの充実と、能力向上が必要である。これまで行ってきた国内外への大学院派遣や各種研修のさらなる充実などに加え、外部研究機関への委託調査を積極的に活用するものとする。

◆Ⅴ.改革実現のための機関の設置

<国会改革両院協議会(仮称)の設置>

  • 国会改革については、現在、衆参両院が議院運営委員会等でそれぞれ別々に検討している。しかし、これまで述べてきた本質的な改革は、両院にまたがる問題であり、両院で統一的に協議する機関「国会改革両院協議会(仮称)」を設置して、本格的に議論を進めるべきと考える。

◆おわりに

  • 国会改革については、現在、超党派の『平成のうちに』衆議院改革実現会議の他、各党が検討を進めている。重要なことは、これまで述べてきたように、形骸化した「対立一辺倒の国会」から脱却し、国会を強化するとともに、国民代表としての機能を回復するための本質的な改革を実行することである。
  • 今回の国会改革が、我々が主張する本質的な改革を実現することなく、「ペーパーレス化」・「ICT化」の推進等をもって完結したかのような状況をつくり出してはならない。
  • 今回の国会改革構想は、あくまで第一弾である。今後も国民民主党の政治改革推進本部・国会改革小員会で議論を続け、理念と具体的な改革メニューを詰めていく所存である。

以上

今後の検討項目

  • 通年国会への移行
  • 国会答弁・提出資料等のファクトチェックをする機関の設置
  • 口頭質問の導入等本会議のあり方
  • 委員長の権限強化
  • 公聴会の活用
  • 質問主意書のあり方
  • 経済財政の将来推計機関の設置
  • 政省令を審査するための議会拒否権の導入
  • 議員立法の発議要件の見直し

PDF「国民民主党がつくる国会改革新構想「国会改革の新しい答え。」中間報告」国民民主党がつくる国会改革新構想「国会改革の新しい答え。」中間報告