国民民主党代表の玉木雄一郎です。安倍総理の所信表明演説に対して質問します。

冒頭

 来年4月末で平成の世が幕を下ろします。しかし、その先の将来が見えず、多くの国民が将来不安を抱えています。私たち国民民主党は、未来を先取りする「改革中道政党」として、国民の声に耳を傾け、現実的な答えをつくり出していきます。経済には改革を、社会には多様性を、生活には暖かさを、外交安全保障には現実的な安定感をめざします。

 政府・与党の理不尽な行為に対しては他の野党とも力を合わせて厳しく追及します。同時に、国民のための新しい道を示す、それが私たち国民民主党です。

災害対策

 冒頭、大阪北部地震、西日本豪雨災害、台風21号、そして、北海道胆振東部地震で亡くなられた方のご冥福をお祈り申し上げるとともに、被災された皆様に心からお見舞いを申し上げます。

 しかし、今回の安倍政権の災害対策は遅い。あまりに遅すぎる。

 あの豪雨被害の最中の破廉恥な「赤坂自民亭」、そして、全国各地が復興のための補正予算を求めたのに、なぜ臨時国会、そして、補正予算の審議をここまでしなかったのですか。

 私たち国民民主党は、復旧ための補正予算を組むことには賛成します。しかし、安倍政権の災害対策は遅すぎます。私たちは、もっと迅速な災害対応が可能だと考えます。被災者に寄り添った、速やかな対応を強く求めます。

日米地位協定

 まず、日米地位協定の改定について伺います。沖縄県知事選挙で当選した玉城デニーさんだけでなく、与党が推薦した佐喜真候補も、日米地協定の改定を公約に掲げました。日米地位協定は、ドイツやイタリアと比較しても、日本の主権や国内法の適用が広く制限されています。日米地位協定が、我が国の主権や国内法より上位にある、異常な状態です。

 実際、今年1月に相次いだ米軍機のトラブルを受け、防衛省が求めていた普天間飛行場への自衛官派遣は8ヶ月以上も米軍に拒否されたままです。また、東京オリンピックや増大する外国人のインバウンドに備えるため、羽田空港への新たな飛行ルートの開設協議が行われてきましたが、いわゆる横田空域を通過するため、米軍に拒否されたまま開設の見込みが立っていません。

 議場の同僚議員の皆さん、こんなおかしなことをもうやめにしませんか。独立国とは思えない惨めな現状を改めずして、総理の言う「新たな国創り」などできるはずもありません。国民民主党は、年内をめどに日米地位協定の改定案をまとめます。今こそ、与野、野党といった政治的立場を超え、地位協定の改定に踏み出す時です。総理の決意を伺います。

北方領土問題

 次に、北方領土交渉について伺います。先月の東方経済フォーラムで、プーチン大統領は、従来の日本の立場とは異なる「前提条件抜きにした年内の平和条約締結」を提起しました。総理は、その後、日本の原則的立場を述べて反論したと報道されています。私も原則的立場は重要だと思います。しかし、70年間何も動かなかったことも事実です。

 先日、根室市を訪問して元島民の皆さんと話をしました。すでに6割の方が亡くなられ、平均年齢は83歳です。彼らが望んでいるのは、早く島が返ってくること、そして、島に自由に行けるようになることです。しかし、総理、今のままで果たして展望が開けますか。

 そこで、総理に伺います。1956年の日ソ共同宣言を土台にしながら、まず二島の先行引き渡しを、四島返還の突破口として実現する選択肢はあり得ますか。両国の議会が批准した正式な文書は日ソ共同宣言だけです。法的拘束力を持つ条約です。ここに、平和条約を締結後、歯舞群島と色丹島を日本に引き渡すことが明記されています。歯舞群島と色丹島の面積は全体の7%しかありませんが、その周りには、広く豊かな海が広がっています。二島が戻れば、漁業だけでなく関連産業を含めた地域経済の活性化も期待できます。

 もちろん、先に平和条約を結んだ場合に、領土問題を棚上げしないとの確約が得られるのか不安はありますが、もし確約が得られた場合、日ソ共同宣言を土台に平和条約を締結し、歯舞群島と色丹島の二島の先行引き渡しを実現する可能性もあるのか、総理の見解を伺います。さらに、5月の党首討論で指摘したように、返還された島に米軍の施設や基地を置かないことについてアメリカの説得が必要です。しかし、外務省機密文書「日米地位協定の考え方」(増補版)によれば、あらかじめ基地を設けない約束をすることは、安保条約・地位協定上問題があり認められないとされています。今でもこの機密文書の内容は有効ですか。アメリカの説得は可能と考えるか、総理の所見を求めます。

憲法の「平和的改憲」

 次に、憲法について伺います。本年1月の代表質問で、安倍9条改憲案について質問しましたが、総理は「自衛隊の任務や権限に変更が生じることは無い」と答弁しました。しかし、総理、この答弁は国民を欺くウソです。事実、今春に示された自民党の改憲案は「必要な自衛の措置をとることを妨げず」としています。このことで、いわゆる72年見解に示された「必要最小限度」という制約がなくなり、何の限定もない集団的自衛権の行使さえできる可能性があります。「自衛権」の範囲を大幅に拡大する改憲案を作っておいて「何も変わらない」と言い切るのはウソつきであり、こうした誤魔化しの9条改憲案に、国民民主党は反対です。総理、それでもなお「何も変わらない」と言い切れますか。お答えください。

 他方、現行9条は、高い理想を掲げている一方で、権力の付け入る「隙」のある条文でもあります。すなわち、時の政権の解釈で自衛権の範囲が自由に伸び縮みする余地があり、軍事的公権力の行使をしばる「規範としての力」が弱いからです。それは、安保法制の議論の際、9条があっても、地球の裏側で武力行使できる憲法解釈の変更を防ぎきれなかった事実からも明らかです。

 そこで、自衛権の範囲を憲法上明確にし、平和主義を国民自身の手によって定義する「平和的改憲」を議論していくべきと考えます。すなわち、先の大戦の教訓と、憲法の平和主義の原則を踏まえ、例えば、武力行使の三要件を一つのベースにして、「我が国にとっての急迫不正の侵害がある場合であって、これを排除する他の適当な手段がない場合には、必要最小限度の実力行使が可能である」と憲法に明記し、海外派兵はしない、他国の戦争に参画することはないことを条文上明らかにする。これこそが、立憲主義に魂を吹き込む正しい改憲の方向性だと考えます。

 「制約のない自衛権」を掲げる自民党案と、平和主義に整合的な「制約された自衛権」を掲げる案とを比較して議論をすれば、自民党の憲法「改悪」案の問題点が国民に浮き彫りになるでしょう。

 ただし、憲法改正は国民の広範な理解と協力が大前提です。自民党には、数に驕ることなく少数派の意見にも耳を傾けながら丁寧に議論を進めることを強く求めます。その意味でも、憲法審査会において、まずは、国民投票法について議論を行い、とりわけ、CM・広告規制を導入することが、憲法改正案の中身について議論する大前提であり条件です。国民投票法にCM・広告規制を盛り込むことについて総理の見解を求めます。

TAGはFTAそのもの

 次に、米国との間で交渉入りを合意した日米貿易協定について伺います。まず、この協定を「日米物品貿易協定」と訳し、原文にはないTAGという略語まで捏造しているのは悪質です。総理の「FTA交渉につながる交渉はやらない」との発言が虚偽答弁とならないための苦肉の策で、まるで財務省の決裁文書の改竄のようです。そもそも、二国間の貿易協定は、GATTに整合的な「自由貿易地域」しか認められず、その場合「実質上すべての貿易について関税を撤廃する」ことが条件とされています。今回アメリカと交渉する貿易協定も、当然、GATT第24条に規定する自由貿易地域だと思いますが、念のため、総理に確認します。もしそうなら、TAGはFTAそのものだと証明できます。明確な答弁を求めます。

 残念なのは、ここまで策を弄したのに、一昨日、トランプ大統領は、また「日本車に20%の関税をかける」と発言しています。自動車への高関税を回避するとの目的が全く果たされていません。安倍政権のトランプ追随外交の失敗は明白です。自動車について、裏で何を約束しているのか不安は消えません。

 今、むき出しの自由貿易や過度なグローバリズムが世界で問題を引き起こしています。これから自由貿易を推進するに当たっては、国連の持続可能な開発目標であるSDGsに整合的であるべきと考えますが、総理の所見を伺います。

改革のための改革では、農山漁村が崩壊する

 農家は今、安倍政権のコメ政策に大きな不安を感じています。一方、総理は「コメの取引価格は着実に回復しています」と胸を張りました。これは、10アールあたり最大10万5000円もの多額の税金を使って、飼料用米の作付けに政策誘導し、主食用米の生産を抑制した結果、コメの価格が上がっているだけの話です。つまり、税金を使って米価を人為的に引き上げる古臭い農政に逆戻りしているだけなのです。にもかかわらず、所信表明演説で胸を張れるのは、農政改革の本質が全く分かっていないか、分かっていながら誤魔化しているかのどちらかです。税金を使って米価を吊り上げる政策、特に飼料用米の政策に持続可能性があるのか、総理の認識を伺います。

 私たちは、税金を使って価格をコントロールする価格政策ではなく、営農継続可能な所得を農家に直接補償する所得政策の方が、消費者にもメリットがある効率的・効果的な制度だと考えます。国民民主党は、農業者戸別所得補償制度を基にした安心して営農継続できる新たな直接支払いの制度を提案していきます。

 漁業権の付与についても、安倍政権は、漁協に優先順位を定めた現行制度を廃止しようとしていますが、浜の現場には混乱が広がっています。改革のための改革では浜の皆さんの所得は上がりません。一部の企業ための改革ではなく、漁民、漁村のための改革となるよう、当事者の声を十分に反映させるべきです。総理の見解を求めます。

消費税増税と軽減税率の問題

 次に、消費税について質問します。急速に高齢化が進む中、社会保障の安定財源として消費税は重要です。給付と負担をセットで考える一体改革の理念も大切です。ただ、税金の負担が増えることは、みんな嫌です。だからこそ、国民に税負担を求める際には、国民が納得できる環境を整備しなければなりません。しかし、安倍政権の取組はデタラメです。

 最も許せないのは、2012年11月14日の党首討論で、定数削減を約束しておきながら、それから5年経ったら、逆に定数を6つも増やす法律を通して開き直っていることです。こんな国民を騙すようなことばかりでは、とても増税への理解を得られません。 党首討論の約束を反故にしていることに良心の呵責を感じないのか、総理の所見を伺います。

 次に、軽減税率という名の複数税率の導入は、「公平」「中立」「簡素」という税の原則にも反しており、国民民主党は反対です。低所得対策として生活必需品は8%に据え置くとの理屈ですが、ではなぜ新聞、しかも、宅配の新聞にだけ8%の軽減税率が適用されるのでしょうか。駅売りやコンビニで買えば10%、電子版も10%の税率が適用される中で、宅配の新聞だけ8%ということに合理的な理由を見出すことはできません。公平性のかけらもないし、業界と安倍政権との癒着を疑わざるを得ません。

 さらに、インボイスを発行できない免税事業者は取引から排除されるので、中小企業・小規模事業者の廃業促進税制にもなります。廃業が続出したら与党の議員の皆さん、責任取れますか。絶対にやめるべきです。

 そもそも、財務省で前代未聞の決裁文書の改ざんが行われ、多くの幹部職員が職場を去り、自ら命を絶つ職員まで出たのに、自らは何の責任も取らずにいる麻生財務大臣に、消費税増税を語る資格などありません。

コドモノミクスで明るい未来をつくる

 アベノミクスの限界が見えてきました。最大の弱点は、個人消費が伸びないことです。好調な企業業績も個人の所得増には結びついていません。今こそ、企業だけでなく、家計を直接豊かにする経済政策に転換するときです。

 私たち国民民主党は、我が国が直面する最大の課題を少子化・人口減少ととらえ、子どもや子育て世帯への徹底した支援策を講じることで、少子化・人口減少という構造問題の解決と、経済の活性化、特に、消費の活性化を同時に実現する「コドモノミクス」という政策を進めていきます。

 私は、国民民主党の代表選挙で第三子に1000万円給付するとの政策を提案しましたが、子育て世帯には一人最高1000万円給付するぐらいの大胆な政策が必要です。このままでは、社会保障制度だけでなく日本社会そのものが成り立たなくなります。国家存亡の危機です。まさに「静かなる有事」が進行しています。

 だからこそ、今必要なのは、異次元の金融緩和ではなく、異次元の子ども・子育て政策です。国民民主党は、未来を生きる子どもたちに大胆に投資するコドモノミクスで、日本を覆う人口のデフレマインドを払拭し、明るい日本の未来を切り開いていきます。「人づくりなくして国づくりなし」の精神で、人を大切にする国づくりを推し進めていきます。

中小・小規模事業者、地方の生活者支援を

 アベノミクスの効果は、中小・小規模事業者、そして、地方にも及んでいません。法人税減税をしても、中小企業には、社会保険料負担が重くのしかかっています。法人税と違って、赤字になっても払わなくてはならないのが社会保険料です。そこで、国民民主党は、正社員を採用した場合には、その社会保険料を国で負担し、中小・小規模事業者の社会保険料負担を大幅に引き下げ、正社員の採用促進にもつなげる政策を推し進めます。今国会にも関連法案を提出するので、成立に向けた関係各位のご協力をお願いします。

 今、ガソリンの値段が上がっています。先日、全国平均で160円/ℓを超えました。そこで、国民民主党は、ガソリンの値段を安くする経済政策を提案します。3カ月連続して160円/ℓを超えた場合には、暫定税率の一部25.1円を引き下げるトリガー税制が、東日本大震災を機に凍結されたままの状態になっています。国民民主党は、特に、車を使って仕事や生活をせざるを得ない地方の個人や企業の負担を軽くするため、このトリガー条項の凍結解除の法案を提出します。トリガー条項の凍結解除について、総理の所見を伺います。

多様性こそ発展の鍵

 最後に、今国会の重要法案である入管法の改正案について伺います。安倍政権は、外国人材の受け入れ拡大を急いでいますが、全体像が全く見えません。少なくとも、いくつの業種に、どのくらいの規模で外国人が増えるのか見通しを示してもらいたい。定住も可能となるなら、どのくらいの人数が定住すると見込んでいるのか示してもらいたい。また、新たに医療保険の対象となる人数はどのくらいで、保険料収入と国庫負担がどの程度増加することを見込んでいるのか示してもらいたい。そもそも、こんな大事な法案を、なぜ重要広範議案にしないのですか。総理は逃げているのですか。日本社会の根幹に関わる問題です。総理、正々堂々、議論しようではありませんか。

 今、新入生の7割以上が外国籍という小学校も出てきています。日本社会の変化はすでに始まっています。私たち国民民主党は、現実から目を背けることなく、多様性を受け入れ、外国人と共生できる社会づくりに正面から取り組みます。欧米で問題となっているような、いわゆる移民問題を発生させないためにも、包括的な外国人受け入れ政策が必要です。まず、人道的観点から、家族の帯同には柔軟に道を開くことや、働く人の権利保護の観点から、同一労働同一賃金の具体的仕組みづくりが必要です。あわせて、円滑な社会定着をはかり社会の分断を生まないためには日本語教育が極めて重要です。 長期滞在を前提とした外国人には日本語教育を義務付けるべきと考えますが、総理の所見を伺います。

結び

 第2次安倍政権発足から約6年。森友問題、加計問題にみられるように、長期政権の膿が行政全体に広がり、その信頼がガラガラと音を立てて崩れ落ちています。こうした事態を打破し、緊張感のある政治を回復するためには、やはり、野党が力をつけ、国民に安倍政権に代わる選択肢を示さなくてはなりません。

 今の政治の閉塞状況に不満といらだちを感じている国民の皆さん、私たち国民民主党は、そんな皆さんの思いに応えられるよう、未来を先取りする「改革中道政党」として、国民の声に耳を傾け、現実的な答えをつくり出していきます。これまでの考えやルールにとらわれず、日本が進むべき新しい道を示していきます。本日の質問でも、新しい解決策や政策をいくつか提案しました。この他にも、選択的夫婦別姓や尊厳死、そして、女性天皇など、自民党には主張できない政策や社会像を議論し提示しながら、日本が進むべき新しい道を示していきます。もはや、過去の単純な延長線上に私たちの未来はありません。この国会にも、新しい息吹を吹き込む決意と覚悟を申し述べ、私の質問を終わります。