矢田わか子参院議員

 ――矢田議員は参院内閣委員会の野党筆頭理事として「IR(カジノ)整備法案」の審議について与党との交渉に当たられてきましたが、まずはそのご苦労を聞かせてください。

 矢田 法案は、7月10日に委員会で審議入りしましたが、早くも19日には与党が質疑終局・採決を押し切ろうとしてきました。しかし、10日と言えば豪雨災害が起きはじめた時で、そこから第一の苦渋が始まりました。IR法案で委員会を開くと与党が言ってきた時には、当然、私たち野党は大反対をしました。土砂災害が発生してまだ間もない時期で、「石井啓一大臣にはIR担当大臣の仕事よりも国土交通大臣として仕事に専念してもらいたい。そのために、IR法案の審議は止めるべきだ」と。その後も、「今日はとにかく止めましょう。仮にIR法案が時間切れで継続審議になったとしても、臨時国会を開いてまた審議を続ければいいのだから。それで誰も困らないではないか」と、それこそ泣きながら訴えました。

 しかしながら、実際には与党は一度も委員会を開くのを見合わせることなく、10日、12日、13日、17日、19日と5回の委員会をすべて委員長の職権で開会しました。

 その中で私たちは、石井大臣が委員会室に座るなら、災害のことも質問させてほしいと申し出て、これを与党にのませました。最終的には参院の委員会質疑時間は20時間19分ということで、衆院の19時間10分を上回りました。とはいえ、豪雨災害問題も多く取り上げられたことから、IR整備法案に関する質疑が深まったことにはなりませんでした。そして、19日の委員会では石井国務大臣の問責決議、内閣委員長の解任決議を出した後で、異例でもありましたが野党の要求で75分の質疑が追加されました。その後、会期末が迫る中で、強行採決の可能性を含むカジノ法案の帰趨が注目されるようになりました。私は、今こそ、法案の問題点を国民にアピールする最後の機会だと思いました。

 ――法案の内容については、どこが問題だと思いますか。

 矢田 法案の最大の問題は、刑法で長きにわたって禁止されてきた賭博という犯罪類型に該当するカジノについて、違法性を阻却する、つまり「合法化する」ということですが、それが可能となる要素が十分に伴っているとは言えないことです。例えば、違法性阻却の大きな要素の一つは「公益性の確保」ですが、法案では、カジノ事業者がカジノの粗利益の30%を国庫や都道府県に納付することを定めているものの、その財源が本当に公益・公共のために活用されるかどうかは明確ではありません。

政省令・規則への委任事項リスト

政省令・規則への委任事項リスト

 第二の問題は、カジノ事業の運営や規制に関する多くの事柄が、法律ができたあとで内閣総理大臣が国会の同意を得て任命する委員で構成される「カジノ管理委員会」で決めていく仕組みになっていることです。本来は、立法府でしっかりと審議して規制を設けるべきなのですが、この規則を含め、政令・省令に具体的内容を委任している項目は何と331項目にも上っているのです。法律ができてから、あとで行政の意思で決めるものが圧倒的に多い。こんな不備な法律を世の中に出すのはだめだと思いました。

 第三に、ギャンブル依存症の問題です。従来のパチンコや公営ギャンブルによる依存症に加え、新たな依存症患者が多数でてくる懸念があります。政府は、日本人客の入場を週3回、月10回に制限するなどの入場制限で依存症を予防すると言っていますが、1回の入場は24時間以内であることから、2日にわたる入場もできます。つまり、1週間で6日の入場が可能となるのです。また、胴元であるカジノ事業者が、お客に賭け金を貸すことも認めており、依存症を増やさない予防対策が十分に講じられているとは、とても言えません。

 他にも、多くの疑問点・懸念点がありますが、このような理由で、国民民主党としてはIR法案には強く反対しました。

 ――法案に反対する一方で付帯決議を付けたということについてはいろいろな反響があったと思います。

 矢田 法案の審議で疑問に思った点や政省令・規則策定における留意点などを盛り込み、31項目の付帯決議を与党にものませたことは、今後につながる成果だったと思います。

 その一例ですが、付帯決議第5項では、区域整備計画を申請する都道府県等に対して、計画の作成段階で公聴会を開いたり、情報開示を通じて、住民の合意を得ることを求めました。また第6項では、この都道府県等が実施方針の策定・変更、事業者選定などを行う協議会には、カジノ事業者以外の意見を適切に反映することを求めました。さらに第29項では、政府や関係地方公共団体が治安対策やギャンブル依存症対策について、立地自治体だけでなく、周辺自治体でも万全の対策を講じることを求め、そのために納付金や入場料による財源の活用などを求めました。これは、ギャンブル依存症はギャンブル施設に近い住民の罹患率が高いという調査結果があるからです。

 これらの決議項目があることによって、今後、関係自治体や周辺自治体の議員の皆さんが、これを拠り所として地方議会などで議論をすることができようになります。ともかく、これからはIR設立をめざす地方自治体関係者や住民の皆さんが取り組んでいただく課題は沢山あると思います。

 今回の付帯決議につきましては、「ギャンブル依存症問題を考える会」という患者と家族の支援を行っている団体代表の田中紀子さんから「付帯決議は苦心のあとが感じられ、すごく良い文章でした。付帯決議は何の役にもたたないと言う人がいますが、法案の一部として採択されたことはすごいことです。本当にありがたいです。」と評価するメッセージをいただきました。その後、依存症患者の家族の皆さまからも同様のメッセージが多数寄せられました。

 実は、19日の内閣委員会で怒号の中で付帯決議案を読み上げましたが、採択後には、野党だけでなく与党の議員の皆様からも、「お疲れさま」「頑張ってくれてありがとう」と、こそっと声をかけていただきました。それぞれの党内の事情で大っぴらには言えないのかもしれませんが、こうしたことで私も救われた気がします。

 これからIR整備法に基づいてカジノ併設のIR事業に関する具体的な制度設計の検討が始まりますが、私も付帯決議の内容が考慮・実現されるよう、責任を果たしていきたいと思います。そして、自治体議員の皆さんとも連携していく必要があると思っています。

 私はもともと家電メーカーに勤めていましたので、製品を世の中に出すときには必ず製造物責任が伴うことを意識してきました。立法府もそこは同じであり、立法責任が伴うことだと思います。これからも頑張ってまいります。