「私権制限と人権とのバランスは立法府が考えるべきでは?」。11日、衆院内閣委員会で「新型インフルエンザ等対策特別措置法」の改正案が審議され、共同会派を代表し、国民民主党から後藤祐一議員が質問に立った。改正案は、感染症の感染拡大抑制のための私権の制限を含む「非常事態宣言」の発令を可能とする同法を改正し、現在蔓延が懸念される新型コロナウイルスについてもその適用を可能とするもの。野党は事前の国会承認を含めることなどを政府に求めていた。
後藤議員は(1)緊急事態宣言に至るまでの具体的な手続き(2)新特措法により設置される①対策本部、②基本的対処方針、③諮問会議と、既存の①対策本部、②政府基本方針、③専門家会議との関係(3)国会への事前報告が必要な項目には何が含まれるのか(4)緊急事態終了と国会議決の関係(5)緊急事態宣言の存続期間(6)緊急事態宣言終了後の検証(7)今回の改正案の法律的な意義(8)「新インフルエンザ等」に含まれる感染症の範囲――等について西村康稔経済財政・再生相を質した。
(1)について後藤議員は、「現段階では政府は、患者数が急増するなど、全国的かつ急速なまん延等の"恐れが高い"とは判断していないらしいが、それではこの法律が適用できない。何のためにこの改正案を今、議論しているのか。今すぐにでも適用できるような文言にすべきではなかったのか」と述べ、実際に対策本部を立ち上げる場合、どれくらい時間がかかりうるのか、また専門家が諮問した通りに総理が宣言をするのか、等について質した。
(2)について西村担当相は、対策本部や基本方針、諮問会議等については「基本的に一本化されることになる」と答弁。(3)の国会への事前報告の内容についても西村担当相は、「概要(緊急事態宣言に至った判断の説明)もできるだけ含め、丁寧に説明していきたい」と答弁。(4)の緊急事態宣言終了と国会議決について後藤議員は「人権と私権制限のバランスについては、立法府が考えるべきではないか」と述べ、国会議決による宣言終了を可能にすべきだった、との私見を述べた。これに対して西村担当相は「解除宣言については、諮問会議の答申に基づき対策本部長(総理)が判断する。経済への影響など様々な情報を総合的に勘案して判断していくことになるだろう」と答弁。(5)の緊急事態宣言の存続期間については、西村担当相は「(法律が許容する)2年間ではなく、1年間を念頭に置いている」と答弁。
(6)の事後検証については、西村担当相が「しっかりやっていく」と答弁したのに対し、後藤議員が「決定に関わった人々以外の専門家を中心にやってもらいたい」との注文を付けた。また検証項目の中に①PCR検査のペース、②ダイヤモンド・プリンセス号への対処、③全国一斉休校要請、④中国からの入国規制のあり方、⑤特措法による対処の遅れ、を含めるべきだと主張した。
(7)について後藤議員は、不要不急の外出自粛や学校の休校、イベントの中止延期などの要請は法律に基づかずにすでに行われている、と指摘。この法律でないとできないことは何なのか、を質した。これ対して西村担当相は、「出入国管理法に基づいて入国の管理をする。検疫法に基づいて一定の検疫措置をとる。あるいは、指定感染症にしているので、感染症法上の措置は、政令で定めている。その他、要請ベースで、国民一般に自粛の要請を行ったり、学校の休校を要請したりと、現行法の下で行えることは行ってきている」と認めた上で、この法律でないとできないことの事例として、①所有者・占有者の同意を得ない土地の使用、②医薬品やマスクなどの物資の売り渡し要請やその保管・収容、③違反者に対する罰則、を挙げた。
その後、野党共同会派側の要求を多く含む附帯決議(※)をつけた同改正法案は、同日午後、賛成多数により可決された。
(※)同附帯決議は20項目からなり、野党共同会派が求めた法案の修正案の内容を多く含む。主な内容には(1)やむを得ない場合を除き、緊急事態の宣言、延長、終了等にあたっては、国会へ事前に報告すること(2)万全の金融・財政政策を講じること(3)中小企業金融の返済期限や雇用保険の給付期間延長の検討(4)今回の事態に対して政府がとった対応について、第三者の立場から科学的・客観的な事後的検証を行うこと(5)特措法適用の対象となる感染症の範囲について速やかに検討すること、等を含んでいる。
附帯決議、野党要求修正案の詳細、および政府提出改正案の内容は、添付資料を参照。